【2016年末企画】 コラム「不屈の男たち」最終回 石崎信弘
MONTEDIO FREE Wi-Fiサービスで、2016シーズン提供させていただいたコラム「不屈の男たち」をシーズンを振り返る年末特別企画として、ホームページにも掲載させていただきます。
このコラムは全9回、「挫折や苦難を乗り越え、活躍を続ける選手・スタッフの現在」を取り上げたコラムです。
第9回目は最終回として石﨑信弘監督。いつまでも変わらぬ選手たちの成長への強い想いを綴ったコラムです。
ぜひこのコラムから、2016シーズンを振り返って頂ければ幸いです。
コラム「不屈の男たち」Vol.9 石﨑信弘
「その成長をどこかの地で」
「これくらいの力を持った選手一人ひとりがこれだけの大きさになれば、チームは自然と強くなるんだよ」
こぶしを握って小さい球体を作ったあと、少し手を緩めて大きくし、それをいくつか並べるように置いて11人を表現する。インタビューや囲み取材などでチームを強くするために必要なものを聞いた時に、石﨑信弘監督の口から出てくる常套文句のひとつだ。
J1昇格はクラブの大きな目標であり、当然石﨑監督も勝利と昇格が最優先。ただ、そのプロセスとして重要視しているのが、選手個々の成長によるチーム力アップというだけだ。
たとえその年だけで結果が出なくても、その経験を糧に選手が成長し続ければ、きっと成果は出てくる。今植えられている苗がどう伸びていくかを楽しみに見ている監督で、目先の結果だけでなく、誰よりもモンテディオ山形の未来を見据える。
今季も結果こそ出せなかったが、「若い選手を中心に成長したし、今年の経験からさらに成長してくれれば」と、汰木や永藤、鈴木などの名前を挙げ、選手の成長に手応えを感じていた。
「ワシが選手を育てるんじゃない、選手自身が育つんだ」とも言い続けた。手塩にかけて一から十まで教える指導者としての接し方ではなく、選手本人の考えに耳を傾けながら監督自身の考えを伝える。コミュニケーションを通して選手自身に判断させ、受け身ではない自主的な成長を促すのが石﨑流だ。
それは若手選手に限らず、中堅やベテラン選手に対しても同じ接し方で、自身の成長のために練習を重ねる選手を、石﨑監督は年齢を問わず好んでいた。
その練習の雰囲気にも配慮を怠らない。試合ではなるべく感情を表に出さないように冷静に振る舞っているが、負荷が高い練習に負けじと頑張る姿を見た時や、良いプレーをした時の「ナイスボール!」といった掛け声を出す時などは笑顔も見せる。練習のほとんどにゲーム性を持たせ、一番厳しいと言われるオフ明けの砂場トレーニングでは特別にBGMを流す事まで許可していた。
これら全ては、厳しい練習を少しでも前向きに取り組ませるための工夫であり、選手の自主的な成長を促すためのもの。すべてのクラブで貫いてきた石﨑監督の哲学を山形でも最後まで貫いてきた。
石﨑監督にとって辛いのは、大きく成長して結果を出した選手から順にチームを離れてしまうことだ。育成手腕の期待に応えても、手塩にかけて主力にまで成長した戦力を留められずに引き抜かれては、翌年に次の選手が育つまでに苦しい戦いを強いられることになる。柏でも札幌でも山形でも、低迷するシーズンの前には、必ず主力選手を引き抜かれている。「せめて移籍金を置いていけばなぁ。その金で他の選手が獲れるのに」冗談交じりで恨み節や愚痴をこぼす事も少なくなかった。
さらには目をかけていた選手が他のチームで不甲斐ないプレーをしていれば「せっかく守備ができるようになったのに」とこぼすのも石﨑監督らしい。丹精込めて育てた苗が枯れて悲しむのも、人として当然のことだった。
今季限りで退任する石﨑監督の功績に報いるには、まずは石﨑監督の山形最終戦を笑顔で送り出すことが一番だ。ただ来年以降も、実現するのなら直接対決の場で苗が大きな樹に成長した姿を見せ続けたい。その成長をどこかの地で。石﨑信弘監督は新しい苗を鍛え上げながら、密かに気にかけ、楽しみにしているはずだ。
古巣山形との対戦について意気揚々と聞く記者に「ワシはなんとも思わんよ」と答える石﨑監督の姿が目に浮かぶが、選手たちとのエピソードはよく覚えていて、良い思い出も苦労話もたくさん聞いてきた。
山形の選手達とのそんな話もいずれどこかで話されていくのだろう。