最後に黒星を喫したのは、1-2と逆転で敗れた第29節・横浜FC戦。当時、モンテディオは9位、6位との勝点差は8差あった。中断期間が明けてからの3勝1分1敗はけっして悪い成績ではなかったが、昇格を現実のものにするためには明らかに間に合わないペースだった。
この敗戦を受け、それまでも一戦必勝を掲げてきた渡邉晋監督の言葉のギアがさらに一段上がった。
「中断明け5試合を終えてひとつしか負けてないね、というようなメンタリティにはなりたくない。われわれはここからの11試合、すべて勝つということで道は切り開ける。もちろん、ほかのチームどうこうというのはあるかもしれないけれども、それをやりさえすれば、絶対自分たちで切り開けると思っているので、自分たち次第でJ1昇格をつかむことができる」
そこからは、クラブ新記録の8連勝で5位に浮上、ようやくプレーオフ圏内に入って最終節を迎えることになったが、当時とやるべきことは何ひとつ変わらない。
今節の相手は勝点2差の6位・ジェフユナイテッド市原・千葉。千葉と勝点で並ぶ7位・ベガルタ仙台も含めた3クラブでプレーオフの残り2枠を懸けることになったが、今節はその直接対決となる。
結果と可能性に関してさまざまなシミュレーションはあるが、ここで余計な仮定を差し挟む必要はないだろう。やるべきことは明確だからだ。これまでのどの試合でもそうだったように、この試合でも“一戦必勝”で臨むのみ。ほかの条件は1ミリも必要ない。
「いま可能性があるのであれば、J1昇格というものは何としてもつかみ取りたいですし、そのために必要なことを毎日やっているつもりです。ただ、最終的にあと3つ、われわれは勝たないとその資格・権利は得ることができないので、いまいる順位とかというのは何も意味をなさないですし、われわれはその資格を得るために挑戦を続けているだけなので、リーグ戦最後1試合もしっかり目の前のゲームというところにフォーカスして勝ちきりたいと思います」(渡邉監督)
千葉はここ10試合で8勝2敗と好調。今季23得点の小森飛絢に加え、横山暁之、田中和樹らもゴールに直結する働きを見せている。5連勝で4位をキープして迎えた前節・V・ファーレン長崎戦は開始早々にPKで先制されたが、前半で追いつくと、逆にPKを獲得。しかし、ここで逆転のチャンスだったこのPKを止められると、終盤の失点で1-2の敗戦、順位は6位に後退した。
7位にはベガルタ仙台が同じ勝点で着けているが、得失点差で大きく優位に立っているため、勝てばプレーオフ進出は間違いない。千葉が見るのは下ではなく、目の前の相手、モンテディオになるはずだ。勝てばモンテディオと順位が入れ替わり、4位・ファジアーノ岡山の結果次第では4位への返り咲きとプレーオフ準決勝のホーム開催の可能性も残されている。前節敗戦のダメージは完全に払拭してくるだろう。
勝点で逆転可能な最終節の直接対決で、下位チームのモチベーションがいかに高いかは、過去2シーズンでモンテディオ自身が実践してきたこと。「引き分けでもよし」の姿勢で試合に入れば、間違いなく食われることになる。どのチームとどんな状況で対戦しても、思わぬアクシデントに見舞われたとしても、終わったときに勝点3を手にしているのが求められる結果だ。細部にこだわり、団結し、フルファイトすれば、必ずその道は開かれる。
ポジション DF
身長 170cm
体重 60kg
生年月日 1989/11/25
出身地 東京
前所属 市立船橋高
モンテディオが過去、プレーオフからJ1昇格を果たしたのは2014年。アグレッシブなプレーが売りの右サイドバックの選手は、ラスト3試合で得点、アシストを記録してチームのプレーオフ進出に貢献すると、磐田とのプレーオフ準決勝でもアーリークロスで先制点をアシスト。アディショナルタイムにGK山岸範宏が決勝点を決めて勝ち上がったチームは、決勝点でも千葉に1-0と競り勝ち、ミラクルな昇格劇を完結させた。天皇杯セミファイナル、ファイナルと並行する過密日程のポストシーズンを、その右サイドバック・山田拓巳はフルタイム出場で走り抜けた。
あれから10年。自称“永遠の若手”はサイドの右左こそ違うが、いまもピッチを走り続けている。10年前の話を持ち出すと、「まだ早いんじゃないですかね、そこに関しては。プレーオフに行くのが目標でもないし」と、しっかり釘を刺してきた。
自身の過去の成功体験は、求められれば惜しげもなくシェアするのだろうが、チームが好調のいまはそっと胸に仕舞い込む。
「自分自身も、経験してきたから何かを言うとかそういうんじゃなくて別にいいかなあって感じはしてます。とにかく自分たちで目の前の試合に勝つだけだし、そこだけに集中しています。それぞれが、そこの大事さというのを何も言わなくてもわかっている」
モンテディオはここ2シーズン、終盤に追い上げ、最終節に圏外からプレーオフ進出を果たしているが、その時期、山田はピッチにもベンチにもいなかった。昨シーズンの第41節、アウェイ・いわき戦でも、午前練習後に岡﨑建哉とともに現地に駆けつけ、チームを激励する側だった。今シーズンもベンチ外が多く、スタメンに定着したのは夏の中断期間明け2試合目、第26節・徳島戦からだった。
もしもどこかで、山田が自身の成長をあきらめたり、ネガティブな感情をチームに持ち込んでいたら、山田自身のスタメン復帰もチームの快進撃もなかっただろう。その立ち振る舞いは、いまも悔しい思いを続けている選手たちへの強烈なメッセージになったはずだ。山田の不屈の姿勢は主力組にもサブ組にも刺激を与え、チームの一体感を作る大きな原動力となっている。
「こういう大一番の時期でも、ふだんどおりの雰囲気だっていうのは、もしかしたら一番いい状況なのかもしれない。もちろん、勝ちが続いてるからっていうのもあるかもしれないですけど、それで浮かれてる様子もないし、緊張感があり過ぎて変に萎縮したり固まってるってこともない。だからみんなすごいいい状態なんじゃないですかね」
天国も地獄も見てきたモンテディオでの17年間。その集大成はまだまだ先だ。